■ チアゾリジン系薬剤とは
チアゾリジン系薬剤には以下のような代表的な薬剤があります:
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ピオグリタゾン(商品名:アクトスなど)
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ロシグリタゾン(日本では承認されていませんが、海外で使用歴あり)
これらは2型糖尿病において、インスリン抵抗性を改善することで血糖を下げる効果を持ちます。
■ PPARγとは何か?
PPARγ(Peroxisome Proliferator-Activated Receptor Gamma)は、核内受容体型転写因子の一つです。細胞核内でDNAに結合し、特定の遺伝子の転写を調節します。
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主に脂肪組織、筋肉、肝臓に存在
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脂質代謝、ブドウ糖代謝、インスリン感受性の調節に関与
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PPARγが活性化されると、脂肪細胞の分化促進、アディポネクチンの分泌増加などが起こり、インスリン抵抗性の改善につながります。
■ チアゾリジン系薬剤の作用機序
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PPARγに結合
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チアゾリジン系薬剤はPPARγのリガンド(結合物質)として働きます。
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遺伝子発現の変化
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PPARγが活性化されることで、糖・脂質代謝関連の遺伝子の転写が促進されます。
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インスリン抵抗性の改善
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特に脂肪細胞における脂肪酸の取り込み促進、アディポネクチンの分泌増加、TNF-αの抑制などの効果により、全身のインスリン感受性が向上します。
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血糖降下作用
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結果として、肝臓での糖新生抑制、筋肉でのブドウ糖取り込み増加などが起こり、血糖値が下がります。
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■ チアゾリジン系薬剤の利点と注意点
◉ 利点:
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インスリン分泌に依存しない作用のため、膵β細胞機能が低下している症例にも使用可能
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高アディポネクチン血症を介した動脈硬化予防効果の可能性
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非アルコール性脂肪性肝疾患(MASLD、旧NAFLD)にも有効性が示唆されています【PubMed: 16685040】【PubMed: 29627275】
◉ 注意点:
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体重増加:皮下脂肪の増加によるもの
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浮腫、心不全の悪化:ナトリウムと水分貯留のため
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骨折リスクの増加:特に高齢女性
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膀胱がんリスクについてはかつて議論がありましたが、現在では明確な因果関係は否定的です
■ 最新の知見と臨床応用
近年では、PPARγを完全に活性化する「フルアゴニスト」ではなく、副作用を抑える「選択的PPARγモジュレーター(SPPARγM)」の研究も進んでいます。これにより、インスリン抵抗性改善効果を維持しながら浮腫などの副作用を軽減することが期待されています。
また、ピオグリタゾンはMASH(代謝機能障害関連肝炎)※旧NASHに該当する疾患の治療薬としての研究も進行中です。
■ 引用文献(PubMed)
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Belfort R, et al. A placebo-controlled trial of pioglitazone in subjects with nonalcoholic steatohepatitis. N Engl J Med. 2006;355(22):2297-307.
[PMID: 17135584]【PubMed: 16685040】 -
Musso G, et al. Pioglitazone versus placebo or active comparators for the treatment of NASH: a meta-analysis. Hepatology. 2017;66(1):141–157.
[PMID: 29627275]