インスリン製剤には複数の種類があり、それぞれ作用時間や使用目的が異なります。
以下に、糖尿病標準診療マニュアル2025の記載と標準的な分類に基づき、インスリンの種類をわかりやすくまとめます。
インスリンの種類と特徴
インスリン製剤の分類と特徴
インスリンは、主に糖尿病における血糖コントロールのために用いられるホルモン製剤です。
特に1型糖尿病や血糖値が著しく高い2型糖尿病では、欠かせない治療手段となります。
インスリン製剤は、その作用発現時間(開始までの時間)、作用のピーク時間(最大効果)、持続時間により分類されます。
超速効型インスリンアナログ
定義:注射後すぐに作用し始め、短時間で血糖値を下げるタイプのインスリンです。
主な製剤:
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リスプロ(ヒューマログ)
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アスパルト(ノボラピッド)
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グルリジン(アピドラ)
特徴:
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作用開始:10〜20分
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ピーク:1時間前後
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持続時間:3〜5時間
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食直前に注射することで、食後血糖の急上昇を抑制できます。
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インスリンポンプ療法(CSII)にもよく用いられます。
速効型インスリン
定義:ヒトインスリンに近い製剤で、やや遅れて効果を発揮するタイプです。
主な製剤:
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レギュラーインスリン(ノボリンR、ヒューマリンR)
特徴:
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作用開始:30〜60分
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ピーク:2〜3時間
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持続時間:5〜7時間
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食前30分の注射が必要です。
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血糖コントロールの計画性が求められるため、使用頻度は減少傾向です。
中間型インスリン
定義:持続時間が長く、基礎インスリンとして使用されるタイプです。
主な製剤:
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NPHインスリン(ヒューマリンN、ノボリンN)
特徴:
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作用開始:1〜2時間
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ピーク:4〜12時間
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持続時間:12〜24時間
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朝夕2回投与されることが多く、夜間の血糖コントロールに適しています。
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プレミックス製剤(混合型)にも含まれることが多いです。
持効型インスリンアナログ(基礎インスリン)
定義:ピークが少なく、長時間安定した効果を発揮する製剤で、主に基礎インスリンとして使用されます。
主な製剤:
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グラルギン(ランタス、トレシーバ)
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デテミル(レベミル)
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デグルデク(トレシーバ)
特徴:
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作用開始:1〜2時間
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ピーク:ほぼなし
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持続時間:24時間以上(特にデグルデクは最大42時間)
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1日1回の投与で安定した血糖コントロールが可能です。
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夜間の低血糖リスクが低い点が特徴です。
混合型インスリン製剤(プレミックス)
定義:速効型もしくは超速効型と中間型インスリンを一定比率で混合した製剤。
主な製剤:
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ノボラピッド30ミックス
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ヒューマログミックス25、50
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ノボミックス30
特徴:
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作用開始:15〜30分
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ピーク:2〜8時間(速効部分の影響)
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持続時間:12〜24時間
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1日2回の投与で食後高血糖と基礎分泌の両方をカバー。
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インスリン導入初期や注射回数を減らしたい患者に向いています。
インスリン療法の選択と導入のタイミング
インスリン療法は、患者の糖尿病の型・重症度・合併症の有無・ライフスタイルに応じて選択されます。
インスリン療法の絶対適応(糖尿病標準診療マニュアル2025より):
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1型糖尿病
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糖尿病性ケトアシドーシス
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糖尿病性昏睡
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重度の肝障害・腎障害・感染症
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妊娠期(計画中含む)
相対適応:
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高度な高血糖(血糖値 ≧ 300mg/dL)
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HbA1cが9.0%以上かつ経口薬での管理不良
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食事療法・運動療法の反応不良
インスリン治療における注意点と指導
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低血糖リスク:特にスルホニル尿素薬やインスリンは重症低血糖(第三者の助けが必要)を引き起こす可能性があるため、自己血糖測定と低血糖時の対応指導が必須。
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シックデイ対策:食事摂取が困難なときもインスリンを中止しないよう指導。特に1型糖尿病ではインスリン中止が命に関わる。
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継続的な教育・自己管理支援が重要であり、糖尿病療養指導士など多職種連携が推奨される。
【インスリン治療の適応】
■ 絶対適応(インスリン治療が必須となる状態)
以下の状態では、直ちにインスリン治療が必要です。
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1型糖尿病:自己免疫により膵β細胞が破壊されるため、体内のインスリンが枯渇する状態。
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糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)や糖尿病性昏睡:重篤な代謝異常で、インスリン欠乏が主因。
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重度の肝障害・腎障害・感染症合併時:経口薬の使用が困難、または無効であり、代謝状態の管理にインスリンが不可欠。
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妊娠期(妊娠計画中・妊娠中・授乳中):胎児への影響を考慮し、安全性と血糖管理の両立を求められる。
■ 相対適応(以下の条件ではインスリン治療が推奨される)
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高血糖による症状の出現(口渇・多飲・体重減少など)
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著明な高血糖(空腹時血糖値 ≧300mg/dL など)
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尿ケトン体陽性:インスリン欠乏の兆候。
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経口血糖降下薬でHbA1cが9.0%以上と高値で推移し続けている場合:インスリンを用いた血糖コントロール強化が必要。
これらの場合、専門医への紹介の上でインスリン治療導入が望ましいとされています。
【インスリン治療が不要なケース】
以下の場合は、インスリン治療に進まず、まずは生活習慣の改善と経口薬による治療が基本となります。
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高血糖が軽度で、食事・運動療法に反応がある
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経口血糖降下薬でHbA1cが改善している(7.0%未満を目標)
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特に重大な合併症を認めず、緊急性のない場合
この場合、インスリン導入の前に段階的な薬物治療の強化(ビグアナイド薬 → SGLT2阻害薬やDPP-4阻害薬の追加)を検討します。
【導入時の注意点】
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インスリン治療導入時は、低血糖リスクへの配慮が必要です。特に高齢者や腎障害のある患者では慎重に投与量を調整することが推奨されています。
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網膜症を合併している場合、急激な血糖降下により悪化する可能性があるため、血糖コントロールの速度にも注意が必要です。
引用文献(PubMed)
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Nathan DM, et al. “Medical management of hyperglycemia in type 2 diabetes: a consensus algorithm for the initiation and adjustment of therapy.” Diabetes Care. 2009;32(1):193-203. [PMID: 18945920]
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Inzucchi SE, et al. “Management of hyperglycemia in type 2 diabetes, 2015: a patient-centered approach.” Diabetes Care. 2015;38(1):140-149. [PMID: 25538310]
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日本糖尿病・生活習慣病ヒューマンデータ学会. 糖尿病標準診療マニュアル2025DMmanual_2025
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